finders keepers

バイクが楽しい。写真が楽しい。釣りが楽しい。

42.195kmの瞑想

f:id:summarit:20171030131131j:plain

金沢、台風が近づく日曜日。
思っていたよりは弱い雨の中、はじめてのフルマラソンがはじまった。

街全体がランナーを応援するお祭りムードを前に、ついつい気分は高揚してしまう。いけない、足取りはゆっくりだ。準備不足はわかっているのだから、少しでも保たせなければ続かない。心拍計を見ながら、上がりすぎないようにペースを整える。

自主ランの時は脚が重くなった15km地点を、何事もなく通過できた。エネルギーチャージのせいか、ペースコントロールのせいか。ここから先は、自己史上最長ランニング記録を更新しつづける世界である。「15kmしか走ったことないのにフルマラソンだって?」その通り。走る理由など考えぬまま、21km地点を無事通過。思っていた通りハーフはなんとか走れた。雨が強くなってきた。

30kmを過ぎ、脚は思うように動かなくなった。ともかく歩いて、前にすすむ。走れなくなったことで体温が下がり、雨と風が身体を苦しめていく。歯がガタガタと震える。周りを見れば同じような状態の人たちがいて、沿道には応援してくれる人たちがいて、身体は前に進むことをやめない。38kmを過ぎてワラーチの紐が切れ、いっそ裸足になってしまうことにする。41km地点、限界を超えたはずの脚がまた走り出した。

 

f:id:summarit:20171030131226j:plain

凄まじい達成感があったかというと、実はそうでもない。限界まで動いた身体、特に足腰に「おまえ、すごいなあ」という気持ちが湧いていただけで、「わたし」が何かを成し遂げたという感覚ではなかったのだ。ただ心が晴れ晴れとしていたのは、この長い行脚の果てに「わたし」がしばし姿を消したからではないかと思う。

只管打坐とはいかない自分でも取り組むことができる、否応無しの禅体験。
初マラソンの感想は、そんなところである。

僕はこの脳で嘘をつく

f:id:summarit:20171023155323j:plain

昨夜、夢を見た。

「台風が近づいていますが、特に予定変更の連絡をいただいていないので、東京に向かいます。」というメールを、迷惑フォルダに入っていたために見逃していた、という夢だ。

実にロマンの欠片もないシーンではないか。夢のなかでも「まずい、連絡しなくちゃ」とか「上京予定っていつだっけ」とか、思考がはたらいていたことを覚えている。朝になってから、念のためにメールを見直してみたら、やっぱりそんなメールは存在しなかった。脳の見せた妄想というわけだ。

分離能の研究で知られるガザニガによれば、脳にはインタープリターモジュールなる解釈装置があって、与えられた情報だけで辻褄を合わせようとするらしい。たしかに先週「迷惑フォルダに分類されていたメールを見落とす」という経験があったし「台風情報を見て通勤の影響を考えて」いたりしたけれど、これらを関連付けるようなストーリーを脳が作り上げてきたと思うと面白い話だ。しかし脚本家としてはセンスがなさすぎる。「仕事熱心なのはいいが、その情報は別々のものとしてファイリングしておきたまえ」と脳の評議会は結論づけた。

 

さて、ぼくらの脳はこのように仕事をしている。目覚めているときにも。

「あのときあの人がこう言った」という記憶が捏造されたものでないことを、確かめる方法はあるのだろうか。ひっきりなしの解釈によって生まれる妄想を、止める術はあるのだろうか。あるいはただ、脳のつくる連続ドラマを楽しんでいればいいのだろうか。

読書感想文:あなたの身体は9割が細菌

f:id:summarit:20160804094443j:plain

作者:アランナ・コリン
翻訳:矢野 真千子
出版社:河出書房新社

 

ヒトの身体には100兆もの微生物が住んでいて、彼らなしには生きてすらいけない。肥満やアレルギー、うつ病といった現代病は、体内微生物の生態系に原因があるかもしれない。今まさに研究のすすむ「マイクロバイオーム」の世界を紹介し、ヒトという存在に新たな視点を与えてくれる、そんな一冊だった。

面白く思えるのは、体内微生物の生態系をひっくるめたものが私たち自身であって、欲求や性格にも多分に影響しているという点である。食べたいものも、異性の好みも、私たちの身体に住む住人たちが国民投票をしているようだ。キスやセックスは使節団の交換であって、「なんか違う」と思ったら外交官がアラートをあげたということなのだろう。理由はわからないのに惹かれるのは、理性を超えた住人たちからの要求かもしれない。父親の匂いを臭いと感じる娘の反応は、実に健全な状態であると喜ぶべきだ。

そしてまたこの住人たちは移動ができる。母から子へ、友から友へ、日々の接触機会を通じて大陸を渡り、移り住んでいく。日本人の一団が南米に移り住んだように、別の集団が定住しはじめれば国家の有り様も少しだけ変化するだろう。実際に、他人の細菌集団を移植するという治療法が効果をあげている例も本書に示されている。体内微生物がどれだけヒト本体に影響するかはわからないものの、長年連れ添った夫婦がどこか似てくるのも根拠のあることかもしれない。類が友を呼ぶのか、友が類になるのか、どちらもありそうな話だ。

「わたし」とは何だろう。
遺伝子や記憶、経験や過去ばかりでなく、体内に共生する住人たちにも目を向けてみたい。

SUZUKI SV650 インプレッション@熊本

f:id:summarit:20170611232204j:plain

いいとは聞いていたけど、阿蘇の道は本当に気持ちよかった。緩やかな起伏のなかを縫うようにワインディングロードが走り、眼下に見える市街地との高低差が雄大な景色をつくる。標高が高すぎるわけではないから緑も豊富。木立のなかを走る道もあれば、草原を抜けていく道もあり、それでいて熊本の市街から小一時間もあれば辿り着けるというロケーションが、東京住まいの人間からすると激しく羨ましい。ズルいよ、熊本人。

 

f:id:summarit:20170611230855j:plain

レンタルで借りたのはSUZUKI SV650 ABSだ。旅先で変な神経を使いたくなかったからと選んだのだけれど、本当にいいバイクだった。軽くて小さくてシンプル、借りるときもバイク屋の人が「ええと・・・特に説明することはありません」という有様。まったくその通りのバイクで、乗ればすぐに自分の手脚のように感じられる素直さがあり、アクセルを開けば思った通りのパワーが引き出せて、それでいて変に急かされることがなく、純粋にライディングを堪能できるのだった。走行距離の少ない車体だったけれどエンジンフィールの良さは十分に感じられて、走るほどに味わいが増すんだろうな。やはりVツインは楽しい。

 

f:id:summarit:20170611233833j:plain

いい意味での地味さというか、控えめな存在感も魅力だと思う。ライダーというものはうっかりすると乗ったバイクのパワーを自分の速さだと勘違いしたり、自己のアイデンティティを投影させてしまうものだけれど、SV650に乗っているということはたぶん背伸びの必要がない。セローがそうであるように主役はあくまでライダー。たぶん自分はSVを選ぶ人を無条件に信頼できる。(V7選んじゃう人のこともそうなんだけど)

 

f:id:summarit:20170613002225j:plain

ところで熊本を走り回っていると通行止めの道はまだまだ多くて、地震の爪痕に気付かされた。阿蘇神社も修復の途中。熊本にはまだまだ支援が必要だ。もちろん東北にも。

 

f:id:summarit:20170613002948j:plain

自分をこの地に向かわせたきっかけはラグビー日本代表とルーマニアのテストマッチなのだけれど、音楽にせよスポーツにせよ、人を集める力が果たす役割の大きさを、身をもって実感した熊本行脚であった。

サーキット走行ことはじめ

f:id:summarit:20170604165004j:plain

何かをはじめようとするとき、本当に必要なのは「やってみたい」という気持ちだけ。初夏の清々しい天気の中、はじめてのサーキット走行に出かけた。

 

f:id:summarit:20170604163948j:plain

目指したのは霞ヶ浦のトミンモーターランド。都心から100kmもない立地と、半日単位のリーズナブルな価格、30分のビデオ講習だけで走れるという気軽な感じがちょうど良さそうだと思った。一周550m足らずだし、ストレートも100mちょっとだし、スピード出ても知れてるだろう、と。健全な大人たちの遊び場は、牧歌的な風景の向こうにある。

 

f:id:summarit:20170604164404j:plain

ゲートオープンは8時。受付とライセンス講習を済ませてから、サーキット走行の準備をする。ボルト8つで前後の保安部品が取り外しできてしまうところがさすがKTM。タバコを吸いながら9:30のスタートを待つ。

 

f:id:summarit:20170604165101j:plain

ハイシーズンの休日とあってか、サーキットは大盛況。20分ごと3つのクラスに走行枠が分けられて、午前中は3本走れるということになった。なんだそんなもんかと思ったのは、この時までのハナシ。十分すぎる時間だということは走ってから分かった。

 

一本目。無理せず慣れようと走る。一番遅い枠なのに(自分から見ると)みんな速い。台数多くて怖い。バイクってこんなに寝かせるんだっけとか、どのぐらい減速するべきなのかとか、全然よくわからない。15分くらいで集中力が尽きてコースアウト。

二本目。やっぱりうまく走れない。ずっとコーナー!というようなコースだし、バイクどうこうというより腕の問題だ。タイトなコーナーをスイスイ抜けていく皆の姿にあこがれる。上位クラスの走行を見ていたら二人ぐらい転倒していた。大事には至らず。

三本目。速度よりラインを意識してみたら、これまでよりはマシなコーナーリングができた気がする・・・何回かは。はじめの二本より台数減ったようで、ちょっとだけ走りやすくなった。上手に走れるようになったとは思えないが、抜かれるのはうまくなってきたかな。遅くてゴメンナサイ。

 

f:id:summarit:20170604170404j:plain

タイムどころのハナシではなかった初走行は34.5秒。スポーツ走行はじめたばかりだし、伸び代たくさんあるってことでヨシとしよう。怪我なく無事に楽しんでこれたということが一番重要なことでね。