隣の席の会話が耳に入ってくる。男性ふたり、 50〜60代といったところだろうか。どちらも落ち着いて理知的な雰囲気があった。声のトーン、話し方だけでもそれは伝わる。気になってしまったその内容というのは、ふたりのうちの一方(Aさん)が話し続けていたこと、要約すれば「Bさんとは仕事をやっていけない」という話だった。断片的に記憶しているAさんの訴えは、例えばこんなものである。
・Bさんの態度はひどい。
・Bさんは自分がすべて正しく、上から目線だ。
・BさんのCさんに対する言葉遣いが許せない。
・Bさんの言動には相手に対する敬意が感じられない。
・Bさんがいることでチームの生産性が下がる。
Bさんという人は本当に厄介者なのかもしれない。Bさんが変わればチームは変わるのかもしれない。その一方で「どこにでもある話だ」とも考えてしまう。アフターシックスで上司に訴えるというのも、ありふれたシーンだ。
そんなありふれた会話が心に残っているのは、話していたAさんが「立派な大人」に見えたからである。学校の人間関係に悩む10代ではない。社会に出たばかりの20代でもない。まだ若さの残る30代でもない。充実の40代を超えて人を導く50代の男性が、やはりこういう話をしていたのである。「ああ、そうか」と思う。「歳を重ねてもこういう話はなくならないのだ」と。
若い頃は、オトナになればつまらないすれ違いは減るものだと思っていた。人生経験に従って相互理解や思いやりが生まれ、議論が起きたとしてもその次元は高くなるのだと思っていた。
どうやらそういうわけでもないというのは、失望か、福音か。