音は振動だ。ふつう空気や水、肉や骨を媒介として鼓膜に伝わり(その先の複雑な伝達や電気信号への変換を経て)認識された振動を音と呼ぶ。当然ながら振動は耳だけで味わうものではない。コンサートホールやライブ会場に足を運べば、その振動は肌で感じることができるし、床からズンズンと伝わる振動は否応なく心を掻き立ててくれる。
バイクというのは振動の塊であるから、ライディングが与えてくれるのは音楽を聴くこと、あるいは演奏することと似た快楽なのかもしれない。走るという行為の必然としてアクセルの開閉があり、エンジンの回転数によって絶えず振動の変化があって、さながら音階のようなものが生まれる。楽譜はないからインプロヴィゼーション。表現力に限界はあれど、加速・遠心力・重力とのハーモニーは、コンサート会場でも得られまい。
マフラーはまさに管楽器だが、そこに息を吹き込むのはエンジンだ。エンジンはそもそも打楽器的に振動を伝え、基調音を奏でるので、ライディングを通じた官能に大きく影響する。ただの動力ではなく、ライダーはそこにテイストの違いを発見してしまう。使い込むうちにフィーリングが変わってくるのも面白いし、「エキパイは鉄のほうがいい」とかいう嗜好も生まれたりする。
寒空の下、80km/hぐらいで高速をクルージングしながら、そんなことを考えていた。カリフォルニア1400のエンジンは、この大きさだけあって実に豊かな振動を伝えてくれる。回転数を上げてそれなりにキビキビ走れるのが本領なのだけれど、そういう走り方をしたいのなら別のエンジン・ジオメトリが相応しいのではないか。コントラバスを使ってヴァイオリンの旋律を奏でるよりは、少し鷹揚に走ってこの振動を堪能していたい。
それならハーレーでいいんじゃないかって?
うん、あれもいい。