金沢、台風が近づく日曜日。
思っていたよりは弱い雨の中、はじめてのフルマラソンがはじまった。
街全体がランナーを応援するお祭りムードを前に、ついつい気分は高揚してしまう。いけない、足取りはゆっくりだ。準備不足はわかっているのだから、少しでも保たせなければ続かない。心拍計を見ながら、上がりすぎないようにペースを整える。
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自主ランの時は脚が重くなった15km地点を、何事もなく通過できた。エネルギーチャージのせいか、ペースコントロールのせいか。ここから先は、自己史上最長ランニング記録を更新しつづける世界である。「15kmしか走ったことないのにフルマラソンだって?」その通り。走る理由など考えぬまま、21km地点を無事通過。思っていた通りハーフはなんとか走れた。雨が強くなってきた。
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30kmを過ぎ、脚は思うように動かなくなった。ともかく歩いて、前にすすむ。走れなくなったことで体温が下がり、雨と風が身体を苦しめていく。歯がガタガタと震える。周りを見れば同じような状態の人たちがいて、沿道には応援してくれる人たちがいて、身体は前に進むことをやめない。38kmを過ぎてワラーチの紐が切れ、いっそ裸足になってしまうことにする。41km地点、限界を超えたはずの脚がまた走り出した。
凄まじい達成感があったかというと、実はそうでもない。限界まで動いた身体、特に足腰に「おまえ、すごいなあ」という気持ちが湧いていただけで、「わたし」が何かを成し遂げたという感覚ではなかったのだ。ただ心が晴れ晴れとしていたのは、この長い行脚の果てに「わたし」がしばし姿を消したからではないかと思う。
只管打坐とはいかない自分でも取り組むことができる、否応無しの禅体験。
初マラソンの感想は、そんなところである。