finders keepers

バイクが楽しい。写真が楽しい。釣りが楽しい。

読書感想文:あなたの身体は9割が細菌

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作者:アランナ・コリン
翻訳:矢野 真千子
出版社:河出書房新社

 

ヒトの身体には100兆もの微生物が住んでいて、彼らなしには生きてすらいけない。肥満やアレルギー、うつ病といった現代病は、体内微生物の生態系に原因があるかもしれない。今まさに研究のすすむ「マイクロバイオーム」の世界を紹介し、ヒトという存在に新たな視点を与えてくれる、そんな一冊だった。

面白く思えるのは、体内微生物の生態系をひっくるめたものが私たち自身であって、欲求や性格にも多分に影響しているという点である。食べたいものも、異性の好みも、私たちの身体に住む住人たちが国民投票をしているようだ。キスやセックスは使節団の交換であって、「なんか違う」と思ったら外交官がアラートをあげたということなのだろう。理由はわからないのに惹かれるのは、理性を超えた住人たちからの要求かもしれない。父親の匂いを臭いと感じる娘の反応は、実に健全な状態であると喜ぶべきだ。

そしてまたこの住人たちは移動ができる。母から子へ、友から友へ、日々の接触機会を通じて大陸を渡り、移り住んでいく。日本人の一団が南米に移り住んだように、別の集団が定住しはじめれば国家の有り様も少しだけ変化するだろう。実際に、他人の細菌集団を移植するという治療法が効果をあげている例も本書に示されている。体内微生物がどれだけヒト本体に影響するかはわからないものの、長年連れ添った夫婦がどこか似てくるのも根拠のあることかもしれない。類が友を呼ぶのか、友が類になるのか、どちらもありそうな話だ。

「わたし」とは何だろう。
遺伝子や記憶、経験や過去ばかりでなく、体内に共生する住人たちにも目を向けてみたい。