晴れていればどこかに走り出そうというライダーの感覚は、バイクに乗ったことのない人には意味がわからないかもしれない。バイクの運転はなぜこんなにも楽しいのか。他の乗り物とは違うのか。
チクセントミハイのフロー理論の本を読んだとき、その理由のひとつが紐解けた気がした。ざっくりいえば、フロー(=没頭している状態)を体験するためには以下の3つの条件があるという。
1) 目的がはっきりしていること
2) 自己の技術に対して適度な難易度であること
3) フィードバックが得られること
走るという行為を始めれば、発進、停車、カーブという各段階でひっきりなしに操作の目的が生じ、結果がダイレクトにフィードバックされる。バイク自身の挙動や加速におけるG、遠心力など、そのフィードバック量は豊富であるから、運転者はどんどん満足感を得てフローへと向かっていく。車の運転で同じようなフィードバックを得るには相当のスポーツモデルである必要があるだろうし、速度域も上がるし、走る場所も限定されるはずだ。バイクなら30km/hであってもこれが得られる。
運転技術が上がるにつれて、目的の設定は更にグレードアップする。たとえばカーブをどのように曲がるか。走行ラインをイメージするだけでひとつの目標ができ、進入速度をどのように調整するか、重心をどう移動させるか、ブレーキとクラッチ、アクセルの操作、そして全身の動きに至るまで、細かな技術のハードルが積み重なる。カーブの度に、あるいは1秒ごとにこれを味わっているのがバイク乗りである。
これを理解すれば、単にハイスピードで駆け抜けることだけが悦びの源泉でないことに気がつく。身体が危険を感じて発するアドレナリンばかりを快感として求めるのは、公道ライダーにはふさわしくない。そんなことをしなくてもバイクは楽しい。まっすぐ淡々と走ることにさえ、目的は設定できるのだから。